本当の教養は、何らかの目的のためのものではなく、
完全なものを目指すすべての努力と同様に、
それ自体価値のあるものなのである。
(中略)
《教養》すなわち、精神と情緒を完成するための努力もまた、
ある限られた目標に向かう難儀な道ではなくて、
私たちをよろこばせ励ましながら私たちの意識を拡大し、
私達の生きる能力と幸福になる能力を豊かにすることなのである。
――ヘルマン・ヘッセ(草思社文庫『ヘッセの読書術』より)
…とっても、とっても勇気の出るお言葉であります。ぽりぽりと村上春樹を読み返す季節でもあります。年を重ねて、幼かったあの日とは違う観点から人生に何か思うところもあるけれど。だとすれば今の生き方は間違ってはいないのだろうなと思います。思っていくのです。言葉ってすごいわ。
二人とも年をとるということの本当の意味を少しずつ認識しはじめていた。
そして我々はそれに対してなにがしかのものを準備しはじめなくては
ならない時期にさしかかっていた。
来るべき冬のあいだに体を温めてくれそうなものを確保しておくのだ。
――村上春樹『ダンス・ダンス・ダンス』
人にはそれぞれ、あるとくべつな年代にしか手にすることのできない
とくべつなものごとがある。
それはささやかな炎のようなものだ。
注意深く幸福な人はそれを大事に保ち、大きく育て、
松明としてかざして生きていくことができる。
でもひとたび失われてしまえば、その炎はもう永遠に取り戻せない。
――村上春樹『スプートニクの恋人』